
アンモニアの工業的製法(ハーバー・ボッシュ法)
カメレオン先生ハーバー・ボッシュ法は平衡だけ見ると低温・高圧が有利だけど、低温すぎると反応が遅すぎて使えない。平衡の位置と反応の速さ、両方のバランスで条件が決まっているんだよ。
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- ハーバー・ボッシュ法は、窒素N₂と水素H₂から触媒を使ってアンモニアNH₃を合成する工業的製法である。
- 平衡の位置だけ見れば低温・高圧がNH₃生成に有利だが、低温では反応速度が小さすぎるため、鉄を主成分とする触媒を使い、中程度の高温(約400〜500℃)・高圧(約20〜40MPa)で運転する。
- 触媒はNH₃が増える平衡の位置そのものを変えず、平衡に達するまでの時間を短くする役割を果たす。
詳しく
N₂+3H₂⇄2NH₃の平衡から見た条件
ハーバー・ボッシュ法は、空気中の窒素N₂と水素H₂からアンモニアNH₃を合成する工業的製法で、反応式はN₂+3H₂⇄2NH₃(正反応(新しいタブで開きます)は発熱反応(新しいタブで開きます))と書ける。肥料の原料となるアンモニアを大量に作るために20世紀初頭に開発された製法だ。
前のページで見たルシャトリエの原理(新しいタブで開きます)から、この平衡をNH₃が増える方向(右)に動かすには、圧力を高くする(気体分子(新しいタブで開きます)の総数が4から2に減る右側が有利)ことと、温度を低くする(発熱方向である右側が有利)ことが効果的だとわかる。
ところが温度を下げすぎると、平衡の位置としてはNH₃に有利でも、反応そのものが進む速さ(反応速度)が小さくなりすぎて、実用的な時間でNH₃が得られなくなってしまう。
実際の運転条件:平衡と速度のバランス
そこで実際のハーバー・ボッシュ法では、鉄を主成分とする触媒を使って反応速度を大きくし、低すぎない温度(おおよそ400〜500℃程度)と、高い圧力(おおよそ20〜40MPa程度)の条件で運転する。
この温度は、平衡の位置だけ見ればもっと低いほうがNH₃の割合は増えるが、触媒を使っても反応速度が実用上十分な大きさになる下限として選ばれている。圧力は高いほど平衡の位置としても反応速度としても有利だが、高圧にするほど設備のコストが上がるため、実用上のせめぎ合いで決められている。
つまり工業的な条件は、「平衡の位置をできるだけNH₃側に近づけたい」という要求と、「実用的な速さで反応を進めたい」という要求の両方を満たすように選ばれた、妥協点なのだ。
なぜ触媒だけでは低温の問題を解決できないのか
触媒は反応速度を大きくする(活性化エネルギー(新しいタブで開きます)を下げる)が、平衡の位置そのものは変えない。つまりどんなに良い触媒を使っても、低温のまま運転すれば平衡の位置はNH₃に有利なままだが、そこに達するまでの時間はいくらでも長くなりうる。
逆に温度を上げれば反応速度は大きくなるが、ルシャトリエの原理によって平衡の位置はNH₃が減る方向(吸熱方向)に動いてしまう。つまり「速く反応させたい」と「NH₃を多く作りたい(平衡を右に寄せたい)」は、温度に関してはトレードオフの関係にある。
ハーバー・ボッシュ法の運転条件は、この2つの要求のバランスを取った結果であり、化学平衡と反応速度という2つの考え方を組み合わせて初めて説明できる、化学平衡の工業的な応用の代表例だ。
確認問題
確認問題(解答用紙)
スマホやタブレットで読み取ると、この問題をその場で解けます。
https://manazoo.com/science/haber-bosch-process-and-industrial-ammonia-synthesis/?from=print#quiz
ハーバー・ボッシュ法でアンモニアを合成する反応式として正しいものはどれか。
- ◯ N₂+3H₂⇄NH₃
- ◯ 2N₂+3H₂⇄2NH₃
- ◯ N₂+H₂⇄NH₃
- ◯ N₂+3H₂⇄2NH₃
正解:N₂+3H₂⇄2NH₃
ハーバー・ボッシュ法の反応式はN₂+3H₂⇄2NH₃で、両辺の窒素原子・水素原子(新しいタブで開きます)の数が合っている。ハーバー・ボッシュ法でNH₃の生成(平衡の位置)に有利な圧力の条件はどれか。
- ◯ 真空
- ◯ 高圧
- ◯ 低圧
- ◯ 圧力は平衡の位置に関係しない
正解:高圧
N₂+3H₂⇄2NH₃は右辺のほうが気体分子(新しいタブで開きます)の総数が少ないので、圧力を高くするとNH₃が増える方向に平衡が移動する。ハーバー・ボッシュ法で、平衡の位置だけ見れば低温が有利なのに、実際には中程度の高温(約400〜500℃)で運転するのはなぜか。
- ◯ 低温では装置が壊れるから
- ◯ 低温では反応速度が小さすぎて実用的な時間でNH₃が得られないから
- ◯ 触媒が低温で壊れるから
- ◯ 低温ではN₂とH₂が反応しなくなるから
正解:低温では反応速度が小さすぎて実用的な時間でNH₃が得られないから
低温は平衡の位置としてはNH₃に有利だが、反応速度が小さくなりすぎるため、実用的な速さを確保できる温度で運転する。ハーバー・ボッシュ法で使われる触媒の役割は何か。
- ◯ N₂とH₂の物質量を増やす
- ◯ 反応速度を大きくして、実用的な時間で平衡に近づける
- ◯ 平衡の位置をNH₃側に大きく動かす
- ◯ 圧力を下げる
正解:反応速度を大きくして、実用的な時間で平衡に近づける
触媒は平衡の位置そのものは変えず、反応速度を大きくして実用的な時間でNH₃が得られるようにする役割を持つ。
単元のポイント
- ハーバー・ボッシュ法 N₂+3H₂⇄2NH₃の反応を触媒を使って工業的に行い、アンモニアを合成する製法
- 平衡の位置と反応速度のバランス 低温・高圧は平衡の位置としてNH₃生成に有利だが、低温では反応速度が小さすぎるため、中程度の高温で運転する
- 鉄を主成分とする触媒 反応速度を大きくして、平衡に達するまでの時間を実用的な範囲に短縮する役割